出会いの理由はいつも百ある

慎重さ

 村井勉さんは、「マツダでもアサヒビールでも、技術者の慎重さに悩まされた。その結果を得た教訓は、時々技術者の頭を叩いて『できません』ということを無理にやらせることだ。そして新しい商品開発にチャレンジさせないといけない」と語る。
 ビール業界が容器戦争をしていた時に素人考えで変だと思って消費者を対象に味の調査をすると、「コクとキレ」のあるビールを欲しがっていることが分かった。
 技術者に命じると、「コクとキレは矛盾している。不可能だ。」と言う。「不可能を可能にするのが技術者の仕事だ。つくってくれ」と言っても技術者は反論するだけだったが、「社長命令だ、とにかくつくれ」と言った。その結果生まれたのが、スーパードライである。
 資生堂の福原義春さんも、「フランスの諺にもあるでしょう。できない理由はいつも百あると。要するに、やれないという理由はいくらでも出てくるんですよ。難しいことをやるよりも、できないと言って、その理由を沢山並べておけばそのほうが楽ですからね」と言う。
 これは技術者だけの問題ではない。どんなことでも「不可能です」と言われて、「そうかしようがないな」と言っていては、他社に打ち勝つ新製品も業務の改善も生まれない。

現場感覚か

 村井勉さんが住友銀行の業務部長をしていた時、新しく店舗を出すための会議で候補地について説明したところ、役員からいろいろな文句が出て収拾がつかなくなった。すると、当時頭取をしていた堀田庄三さんが、さんざん文句を言っている重役に質問した。
「君は、いろいろ文句をつけているが、現地を見ているのか」
「いいえ、見ていません」
「見ていないのなら、黙っていなさい。諸君の意見はよく分かった。これから現地を見に行く。村井君、一緒について着たまえ」
そう言って席を立った。
その時の経験から現場の大切さを痛感し、アサヒビールの再建のときも現場に近いひと、営業の第一線でお客様のニーズをよく知っている人たちの意見を重要視して成功した。現場を知らない煩い人の意見は無視して、現場を最優先したからこそ、アサヒビールは流れを変えることに成功し、スーパードライの大躍進に結びついたといえる。
組織が大きくなると、現場を知らない役員やスタッフが幅を利かすことになる。そんな人の机上の空論に引き摺られていては、これからの時代を生き残っていくことはできない。

できる人は多くのイモヅルを持っている

 アメックス・カードの新規開拓で常にトップクラスの獲得数を記録している平林洋一さんは、カードにはさまざまなサービスがあるが、勧誘時に説明するサービスを一本に絞る。
 まず、顧客が求めるサービスを探り出すために細心の注意を払う。会話をしながら、旅行好き、海外出張が多いかなどを探るのはもちろん、客の顔が日焼けしている、手を見たら左右の日焼け度合いが違うなどの外見からゴルフ好きと予測し、ゴルフに関するサービスが充実してることを説明していく。
 同時に、その顧客から社内のゴルフ好きを教えてもらう。「同僚の方と一緒にラウンドすることが多いですか」といった尋ね方をすれば、カード勧誘と直接関係のない話なので比較的気軽に話してくれる。そうした糸をたぐり、一網打尽に勧誘していく。
 新人の営業マンほど、つい「あれもあります、これもあります」と沢山の機能を説明してしまいがちだ。しかし、僅かな時間に利点を訴えるには、ツボを突くしかない。そのためには、感性を研ぎ澄まして情報収集のアンテナ精度を高めることである。

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